歯科治療には、保険診療と自費診療の2種類があります。これまで歯科治療を受けたことがある人であれば、初診の際に、どちらの診療を希望するかを聞かれた経験があることでしょう。
ただ、一般の患者さんからすると、保険診療と自費診療の違いについて厳密にわかるはずもないため、戸惑ってしまう方も少なくないかと思います。
ここではそんな歯科治療における保険診療と自費診療の違いについて、詳しく解説します。
保険診療と自費診療では、まず根本的に、患者さんが負担する治療費の割合が異なります。
保険診療の場合は、70歳未満の人は3割負担、70~74歳の人は2割負担、75以上の人は1割負担となっています。年齢が上がるにつれて、患者さんが負担する割合が減っていっていますね。現状、3万円の治療費が発生しても、75歳以上の人であれば支払いで済む計算になります。
一方、自費診療というのは、治療費の全額自己負担を意味します。言い換えれば10割負担ですね。ですから、3万円の治療費が発生した場合、患者さんの年齢に関わらず、3万円の支払いが生じることとなります。これが保険診療と自費診療の根本的な違いと言えるでしょう。
保険料と自費診療では、治療に使用できる歯科材料に違いがあります。例えば、虫歯治療を例に挙げてみましょう。
虫歯治療では、病変部を歯科用のドリルで削ることで取り除きます。その際、生じた穴を歯科用の材料で埋めることとなるのですが、保険診療では、基本的にレジンというプラスチックや、いわゆる銀歯と呼ばれる特定の合金しか使用することができません。
これらは材料費の原価が安いため、保険が適応されています。けれども、レジンや銀歯というのは原価が安い分、劣化しやすかったり、見た目が悪かったりします。質の高い歯科治療を希望される患者さんにとって、これらは大きなデメリットといえるでしょう。
自費診療では、基本的にどんな歯科材料でも使用できます。例えば、保険診療では奥歯の被せ物を金属で作製しますが、自費診療であれば、セラミックやジルコニアといった比較的高価な材料を使用することも可能です。
これらの材料は、見た目が非常によく、レジンよりも丈夫で、劣化しにくい材料ですので、質の高い歯科治療をお望みの方にはお勧めの素材といえます。
その他、入れ歯を作製するにしても、自費診療でしか使用できない材料などもあり、選択肢は非常に広がると言えるでしょう。
保険診療と自費診療とでは、患者さんが受けることができる治療法に違いがあります。そこで、1本の歯を虫歯なり外傷によって失ってしまったケースを考えてみましょう。
保険診療であれば、こういったケースではブリッジが適応されることが多いです。ブリッジは、失った歯の両隣を土台として、人工の歯で隙間を埋める治療法です。
この治療法では、左右の健康な歯を少し削る必要があったり、見た目がそれほど良くなかったりと、それなりにデメリットがあります。もしこれが自費診療であれば、インプラントという治療法が選択肢として増えることとなります。
インプラントは、チタン製のネジを顎の骨に埋める治療法で、これが失った歯の歯根の役割を果たします。その上に人工歯を被せることによって、歯を失う前に限りなく近い状態まで、欠損部を回復させることができるのです。
そして何より、ブリッジのように両隣の歯を削る必要がないため、残存歯への悪影響を最小限に抑えることもできるのです。
このように、歯科の保険診療と自費診療には、患者さんが支払う費用の違いだけでなく、治療に使用できる材料の違い、適応できる治療法の違いなどが挙げられますので、どちらを選択するかは、患者さん自身の価値観に委ねられるといえます。
初診の際には、治療において何を優先するのかをお伝えください。患者さんの希望に応じて、保険診療が適しているのか、あるいは自費診療が適しているのかの的確なアドバイスをいたします。